中小企業の組織作りにおいて、部課長等の「管理者(=部門リーダー)」の人選で頭を悩ましている経営者は少なくない。この悩みには「事前」「事後」の二つのパターンがあるが、いずれも心当たりがあるのではないだろうか?
- 誰にしようか?、と事前に悩んでいるケース
- 期待通りの役割を果たしてくれない、と事後に悩んでいるケース
「事前」であっても「事後」であっても、この悩みを抱えている経営者とディスカッションをしていると「同じ問題点」に辿り着く。
ここでは、管理者(=部門リーダー)人材が不足している中小企業における「管理者選びの問題点」について紹介しよう。
リーダーの3つの役割
ボクがマネジメント・コーチの現場で見聞きする「よくあるパターン」は、「勤続年数」と「実務スキル」で「管理者」を選出・任命しているケースだ。
先に結論を言うと「それは、実務習熟者であって、必ずしも管理者(=部門リーダー)適任者ではない」だ。スポーツの世界において、一流プレーヤーが、必ずしも監督・コーチの適任者とは限らない、ということと全く同じである。
実務習熟者や熟練者は「実務指導係」とすれば、期待通りの役割を果たしてくれるかもしれないが、チームをまとめ、率いるリーダーとしては適任でないことが少なくない。
ボクは、リーダーには「3つの役割がある」とアドバイスしている。この3つの役割が期待できる人材であるかどうか?を見極めて人選し、任命することが望ましい。
上下の役割

まずは、管理者として「上下の役割」がある。組織の中間管理職として、組織の上部・下部との円滑に連携するスキルを持っているか?である。
簡単に言うと「上意下達」に優れており、逆に、下部の意見や情報を上位に伝達する(敢えて言うなら)「下意上達」の役割も任せられる人材であるかどうか?である。
自分の意思や意図を下層部・末端まで滞りなく、正確に伝える存在であって欲しい。反対に、組織の末端で起きている様々な事象や情報を的確に報連相して欲しい。経営者ならそう思い、その期待をしているはずである。
左右の役割



2つめは「左右の役割」である。組織全体の最適化のために、他部門と円滑に連携することができるか?である。間違っても「部門優先・全体劣後=セクショナリズム」を善とするリーダーを配置してはならない。
他部門がさらにパフォーマンスを上げるための情報提供をしたり、時には、部門を超えてサポートを行う、などという「全体最適」と俯瞰して、自らの部門はどのように動けばいいのか?を考える役割を担ってほしい。
中心の役割



3つめは「中心の役割」である。当然ではあるが、自部門のリーダーとして、その中心でなければならない。そのための「高い支持率」を得ることができるか?部下から慕われ、期待されるリーダーたる管理者かどうか?である。
一言で「右にならえ~ミギっ!」とチームを動かせるリーダーは、経営者にとって頼もしい一言である。
その中でも、その最も期待される効果は「人材育成」である。支持率の高い管理者の元で人材は成長するのだ。
そんなの理想だ!?
管理者(=部門リーダー)には「上下・左右・中心」の3つの役割がある。そんな役割が期待できる人材を「管理職」として任命するべきだ・・・。
「そんなの理想だ!」
と、多くの経営者が口を揃える。「その通り」である。
この3つの役割を申し分なく果たしてくれる「満点人材」は中小企業では極めて少数派かもしれない。しかし「合格人材」なら育成できる。7割レベルでも十分機能するだろう。
リーダー選びの問題点と解決法
中小企業経営者が、部課長等の「管理者(=部門リーダー)」の人選で前述した「事前」「事後」に関わらず悩みが尽きない理由、つまり「管理者選びの問題点」は「リーダーの定義」が不明確であるからだ。
その定義とは、次の2つ。
- ミッション遂行のために自部門を率いて実現・達成する存在
- 自部門の人材の成長を支援し、育成する存在
そのために
- 上下の役割
- 左右の役割
- 中心の役割
を果たしてくれる人材こそが経営者が望むリーダーたる管理者のはずだ。
経営者と管理者(候補)が、この「定義」と「役割」を共に共有し、そのための課題を解決すること、それによって「理想」に近づく。
管理者の適任者がいないときは「持ち回り幹事制」を検討する
さて、どうだろうか?もし、「こんな理想論、当社は無理だ・・・」と思うならひとつおススメの方法がある。
それは「持ち回り幹事制」。
各部門のリーダーを「町内会長」や「班長」のように「持ち回り幹事制」にするのだ。例えば「勤続3年生以上は、任期1年で幹事を務める」という具合に決めてローテーションする。
要件に該当する社員に、幹事を経験させることを通じて「上下の実務」「左右の実務」「中心の実務」をトレーニングする。注意点は、トレーニングなので、求めすぎないことと、寄り添いサポートすることである。
ボクが「持ち回り幹事制」を勧めるポイントが2つある。
一つは「任期」があるので「降格人事」をしなくてよい。「適任ではないから君には降りてもらう」という最悪のフレーズを発する必要がない。「役職手当」の「減給」もない。仮に「(持ち回り)幹事手当」を支給していても、任期中だけなので問題は生じない。
もう一つは、チームメンバーのモチベーションだ。社員にとって「デキの悪い上司」ほどモチベーションが落ちることはない。しかし「持ち回り幹事制」は「上司」ではないので「指示命令」する立場ではない。チームが最高のパフォーマンスを出すための「世話役」なので、このような心配をすることが少なくなる。
まとめ
以上、中小企業が「管理者(=部門リーダー)」を人選する場合の注意点をまとめてみた。
「リーダーの定義」と、上下・左右・中心の「3つの役割」のハードルが高い、と感じた方も少なくないと思う。ボクのマネジメント・コーチの現場でも「人事」ゆえの困難さをよく感じているから、よくわかっているつもりである。
そこで最近は「持ち回り幹事制」をお勧めしているが、是非、検討してほしい。
お役に立ちますように!