「想い通り経営」に「人材の成長」は欠かせない。とはいえ、人材は放置していては勝手に育たない。「頑張れ!」と声掛けだけでも期待通りには育たない。多くの中小企業の人材は「自習が苦手」なのだ。誤解を恐れずにいうと「自習できる人材」は、大手や有名企業に進んでいる、というのが現実だろう。
しかし、中小企業で働く多くの人材は「自習が苦手」であっても決して優秀でないのではない。彼らの多くは潜在的能力を持っている。眠っているチカラを持っているのだ。中小企業はその眠っているチカラを引き出せばいいのだ。
さて、どうやって「眠っているチカラ」を目覚めさせるか?
そのための「仕組み」として、私は「学校方式」をおススメしている。学校の教育システムを応用して「社内学校」を作り、それによって「人材育成を仕組み化」すること。
「社内学校」を作り、眠っているチカラを起こし、優秀な人材を育成するプロセスを紹介しよう。
目次
学校に倣って「社内学校」を作ろう
学校に倣うとは、どういうことか?それは、下記のプロセスだ。
- カリキュラム
- 授業
- テスト
- 補習
それぞれを説明する必要はないだろう。これは見事にPDCAサイクルになっている。
- カリキュラムで「P:育成計画」を立案し、
- それにもとづいて「D:授業」を行い、
- その習熟度を「C;テスト」でチェックし、
- 足りない部分を「A:補習」する、
という具合だ。
「もう、社会人なんだから、そこまでしなくても・・・」
という意見は数多く聞いた。たしかに、その通りだと思う。もはや学生ではないのだから、そんなことしなくても自主的に学習するのが社会人だろ、と思う。
「君たちは、社会人だ。会社が用意しなくても、自主的に、積極的に切磋琢磨、研鑽を重ねること!」
と、一言いえばよい?・・・しかし、残念ながら、これは多くの場合「空砲」に終わる。
経営は「実務」だ。「成果」「効果」のためには、「理念」や「理想」を諦めなければならないことは多々ある。「人材育成」は、とくにそうだと思う。
この際、理想は横に置いて、人材育成のため、上記のPDCAサイクルを回す学校に倣って「社内学校」を作ろう。
PDCAサイクルの実務
さて、PDCAサイクルの各項目について実務的な取り組みを紹介しよう。
P:Plan:カリキュラムを作る
まずはカリキュラムだ。ポイントは「何を教えるか?(=プロセス)」の前に「どのような人材に成長して欲しいか?(=ゴール)」を明確にすることだ。
当社が求める「優秀な人材」とは、どのような人材なのか?を詳細に言語化することが重要である。この「社内学校」の設計において「8割」といっても過言ではない。最も時間と労力を注ぐ部分である。
私がおススメしているのは「基礎スキル」と「実務スキル」の二本立てでゴール設定することだ。「基礎スキル」とは、老若男女・職種・役職に関わらず、全員に共通する「ビジネスパーソンとしての基本的なスキル」である。
私がサンプルとしてクライアントに提案している基本形は、下記のようなテーマだ。
- 社会人力
- 組織人力
- コミュニケーション力
- 課題発見力
- 計画力
- 管理力
- 学習力
- 議論力
- マナー力
- デジタル力
これを「基本形」として、会社の事情に応じて「デジタル力に換えて言語力」といった具合にいくつか入れ替えて設定することが多い。
上記について「どのレベルを求めるか?」を設定し「基礎スキルのゴール」として、その育成プロセスを検討していく。その結果が「カリキュラム」となる。
一方の「実務スキル」についても(営業・総務・設計・各技術という具合に)職種別に優先10項目程度をピックアップし、同様にカリキュラム化する。
D:Do:授業をする
次のプロセスは「D:授業」であるが、カリキュラムに沿って教える活動である。
これは「座学」「ビデオ学習」「宿題」「OJT」、あるいは「外部資格の取得」など、その方法は臨機応変に実施することになる。しかし、いずれにしても重要なのは「スケジュール」を決めることである。
例えば「このビデオは9月末までに視聴し、レポートを提出すること」といった具合だ。業種や職種によって差があるので個別によく検討しよう。
ちなみに、これらの「授業」は「勤務時間」なのかどうか?であるが、結論として「勤務時間」とすることにすることが多い。私も、その方がよいと思っている。「宿題」や「ビデオ学習」などは、それぞれに「想定時間」を設定し、クリアした場合には勤務時間に加算する、といったルールにすることがよいだろう。
昭和世代の経営者からは「教えた上に、給料まで払うのか?授業料を控除したいくらいだ」と愚痴るタイプが多いが「これは人材投資だ」と押し切る(笑)。
また「座学=授業」の場合は「誰が教えるか?」という問題があるが、私は経験上「先輩」が良いと思う。「人に教えることの教育効果」が期待できるからだ。誰かに教える、ということは、その準備として自らが最も習熟していなければならない。「教える」という行為が「トレーニング」になるので、おススメしている。
また、その「座学=授業」には、可能な限り「社長同席」がよい。「教え方」「教えている内容」「聞く側の姿勢」など、そこには経営者ならではの視点でさまざまな気付きがある。その気付きを彼らにフィードバックする、ということも非常に効果的だ。
C:Check:テストをする=人事評価
カリキュラムに沿って、授業をしたら、その習熟度を確認しなければならない。これが「人事評価」に他ならない。カリキュラムで設定したゴールに対して、どの位置にいるか?を確認し、共有するプロセスだ。
まさに学校における「テスト」である。
ここで、お気付きかと思う。
「人事評価基準」は、ほとんど「カリキュラム」と一致する。というか、一致して当然である。なぜなら「カリキュラム」を「人事評価基準」とするからである。
この学校方式の最も特徴的なのは、上記のように「人事評価基準」に沿った研修制度を仕組みにしているところにある。
一般的に「人事評価」を実施している企業でも、そのほとんどが「評価」と「研修」がリンクしていない。極端な言い方をすれば「教えず、自習に任せ、テストしている状態」である。
これは、給与や賞与を決めるための「評価が目的」となっているからだ。私が推奨している「学校方式」は「育成が目的」なので、大きな違いがあるのだ。企業の持続的な成長のためには、どちらがよいか?はいうまでもないと思う。
A:Act:補習をする
人材育成のためには「不足しているところのカバー」が必要である。人事評価でいえば「不合格の項目」について、個別に「合格ライン」まで引き上げるための補習=サポート・フォローが必要である。
その方法は、テーマやレベルによって、それぞれ最適な方法があると思うので、一律の「すべき方法」はない。それぞれに応じて個別に最適な補習を実施することになる。
ちなみに私は「オールラウンドプレーヤー」を求めず「強みを延ばす」タイプなので「補習」といっても、相当ひどいレベルでない限り「弱み」は諦めて「強み」を伸ばすための補習をすることが多かった。
それにはきっかけがあった。「苦手なところがあって萎縮している社員」と接した時「苦手な部分は、他のメンバーがフォローするから、君は、強みをもっと伸ばせばよい」と声をかけたとたんに表情が明るくなり、モチベーションが改善した。「チーム最適化」が目的なので、全員がスターになる必要はないと、私の育成方針が決まった瞬間だった。
つまり「補習」と言っても、「弱点克服」に限らない、ということを留意して欲しい。
まとめ
以上、中小企業の人材育成の仕組みとしての「学校方式」を紹介した。
その柱は、PDCAサイクルだ。
- カリキュラムで「P:育成計画」を立案し、
- それに基づいて「D:授業」を行い、
- その習熟度を「C;テスト」でチェックし、
- 足りない部分を「A:補習」する、
冒頭に書いたように「社員は勝手に育たない」。大企業や有名企業に集まる優秀な人材は「自習力」を持っている人材が多く、彼らは、放っておいても自力で学習し、積極的に経験力を高め、成長していく。
中小企業にも、そのような人材が集まっているなら、会社はとくに育成に時間と手間をかける必要はないかもしれない。しかし、多くの中小企業には残念ながら「自習力」を持った人材は少ない。誰かが手助けする必要がある。そのための「社内学校」だ。
この話をして「その時間がない」「それをする教育係がいない」など「できない理由」を並べる経営者と多く出会ってきた。その時に、私が返していたフレーズは「ずっと物足りない社員とやり続けるのですか?」である。
手間暇とコストをかける十分な価値はある。一度、検討してみてほしい。
お役に立ちますように!

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