人件費は、限界利益の40%が上限である。このラインを超えると黒字になりにくい。給与、賞与、社会保険、福利厚生費などの人件費(人的コスト)の考え方を管理会計の視点で詳しく解説しよう。
目次
人件費は、売上比で見てはならない!
「人件費率」は、一般には「売上に対する人件費の割合」となっているが、自社の収益性を分析をするにあたっては役に立たない。
収益性を分析する場合の「人件費率」は「限界利益に対する、人的コストの総額」を見なければならない。
(人件費率)=(人的コストの総額)÷(限界利益)
ちなみにここでいう「人件費」には、給与や賞与以外に通勤手当や法定福利費、福利厚生費、教育研修費などを含む「人に関わるコストの総額」を指す。
「給料の3倍稼げ!」の誤解
若い経営者は聞いたことがないかもしれないが、かつて「給料の3倍稼げ!」とよく言われたものだ。しかし、これを「給料の3倍の売上」と誤解する者が多かった。
お分かりのように、粗利益(≒限界利益)が10%の商品だったら、3倍の売上なんかではまったく足りない。経営者の意図は「給料の3倍のアラリを稼げ!」だ。
つまり「給料の3~4倍の限界利益」が必要である、と商売の歴史が語り継いでいる。
給料が30万円なら、必要な「限界利益」は90万円~120万円だ。粗利益率10%の商品なら「売上高」にすると900万円~1200万円ということになる。
これを上記の人件費率で計算すると・・・
25%(=30/120)~約33%(=30/90)である。
この給料に、社会保険の会社負担額や福利厚生費、研修費などを加算した「人的コスト総額」は、限界利益の30%~40%の範囲が望ましいということになる。
人件費率が40%以下なら合格
私の30年余りの税理士人生での経験上、人件費率は、下記のような評価をしている。
- 20%以内=かなり優良!(でも、安月給過ぎないか?)
- 30%以内=優良!
- 40%以内=ギリギリセーフ
- 40%以上=ヤバイ!
- 50%以上=危険!(これでも黒字ならOKだが・・・)
人件費率が高いのは給料が高いから?ではないかも
もし、ヤバイラインである40%を超えるような場合、2つの視点で検討しなければならない。人件費率が高いと、ついつい第一印象として「給料が高すぎる?」「人が多すぎる?」と「分子」に着目しがちであるが、実は「分母」に課題があるのかもしれない。つまり「限界利益が少ない」のだ。
中小企業の経営者と人件費についてディスカッションをしていると「ウチは、人件費が高いなあ・・・」と聞くことが多いが、これは間違いで「ウチは、人件費率が高いなあ・・」である。「人件費」が高いのではなく「人件費率」が高いのだ。
本当の原因は「商品力」や「販売力」、つまり、限界利益にあるかもしれないのだ。それなのに経営者に「人件費が高い」といわれると決して好待遇でない社員たちはガッカリするだろう。
「人件費率改善」は、「分子=人的コスト」と「分母=限界利益の最大化」の2つの視点で検討しなければならない。これを細分化すると、テーマは5つである。
- 商品力
- 販売力
- 原価率
- 給与
- 賞与
これらの課題を明らかにし改善に取り組もう。