業績連動型の給与賞与制度を成功させるために必要な3つのテーマがあります。
- テーマ1:管理会計=原資計算のために
- テーマ2:人事評価=公平な分配ために
- テーマ3:教育研修=成長支援のために
どれが欠けても業績連動型の制度設計はできません。
3つのテーマの概要
3つのテーマの概要は次のとおりです。
テーマ1:管理会計=原資計算のために
最初は「管理会計」。
言うまでもありませんが、業績を正しく把握し「社内公開」する必要があります。そのために必要なのが「管理会計」です。
中小企業の場合は「試算表」や「決算書」を公開するわけにはいかないので、月次の会計情報から、社員に公開する数値をピックアップして「先月の業績は、こうだったよ!」と計算し、公開する仕組みが必要です。
テーマ2:人事評価=公平な分配のために
2つ目は「人事評価」です。
業績連動型の給与賞与制度は「人的コスト」の総額から福利厚生費等の副費を控除した「分配原資」を個々に分配=シェアする制度です。その分配計算は人事評価の結果で行います。公平に分配するために精度の高い人事評価が必要です。
テーマ3:教育研修=成長支援のために
3つ目は「教育研修」。
業績連動型の給与賞与制度を成功させるためには、社員達に「自分が成長することで、会社の業績が伸び、それに連動して、自分の給与や賞与が増える」という実感と期待を持ってもらう必要があります。
この実感と期待を持ってもらうためには彼らの「成長意欲」を刺激し続ける仕組みが必要となります。「成長すれば良いことがある」「自分も成長できるんだ」と感じてもらえるような仕組みです。
「教育研修」による成長支援の仕組みが必要です。
誤解を恐れずに言うと、中小企業においては、自主的に「予習復習」「自習」ができる人材は限られています。どちらかというと、親や先生、家庭教師にお尻を叩かれながら勉強してきたタイプの方が多いのではないでしょうか。
このようなタイプの人材に「テストをするから、自習しておくように」と言ってものれんに腕押しです。テスト、つまり「人事評価」の点数を上げるために自助努力することが、どちらかというと苦手なタイプには「外部からの刺激」が必要なのです。
管理会計を活用して原資を計算する仕組み
財務会計ではなく管理会計が必要な理由
分配する「業績」は「純利益」ではありません。「管理会計」について実務的な視点で紹介します。
「管理会計」は、税務当局や金融機関などの外部への公表用の「財務会計」とは違って、社内の独自のルールによる会計です。
この「管理会計」を活用して「原資計算のベースとなる業績」を計算するのですが、これは前述したように経常利益でも、当期純利益でもありません。
経常利益や純利益を用いない大きな理由の一つは「役員報酬の非公開」です。当然ですが、試算表や決算書に記載されている経常利益や純利益は、経営陣の給与=役員報酬もその計算のプロセスに入っています。これを公開するな、とは言いませんが、それなりのリスクがあります。
多くの中小企業の場合、役員報酬は社員の給与や賞与とは全くちがう理由や考え方でその金額が決定されています。それをすべての社員が正しく理解してくれることは非現実的でだからです。役員報酬の金額の理由を説明し、理解を求めるエネルギーを使うことはナンセンスです。
この役員報酬以外にも非公開にしておく方がよい項目がありますが、それが経常利益や当期純利益を分配のベースにしない理由です。
あと、あえて付け加えますが・・・少々荒っぽい言い方になりますが、中小企業において「経常利益」は、経営者の意図によって「なんとでもなる」恣意的な数字です。金融機関の印象をよくするために「利益多めの決算」をしたり、税金対策として「利益少なめの決算」をしたり(極端ですが)「純利益は自由自在」なのです。これに給与や賞与を連動することはできませんよねw。
何を「業績」とするか?
なにを「業績」とするか?を検討する場合、まず思い浮かぶのは「売上高」ですが、多くの場合「売上高」ではなく「粗利」や「限界利益」を用います。売上高をそのまま業績として使うと逆ザヤで売っても業績が上がる、ということになってしまうからです。
「粗利益」や「限界利益」を基準にし、そこから、社員たちの関与度合いが大きい複数のコスト(=計算対象コスト)を差し引いた金額を「業績=分配対象利益」とします。
ちなみに「計算対象コスト」とは「社員の意思や行動が反映するコスト」です。
例えば「地代家賃」。これは社員の努力で何ともしがたいコストです。一方で「消耗品」や「旅費交通費」などは、社員の努力や工夫で無駄を省いたり、もっと上手な使い方ができる可能性があります。
以上のように、給与や賞与の計算のもとにする「業績」は「粗利・限界利益」から「計算対象コスト」を引いたものとします。
業績計算の設計
以上のように「財務会計」の試算表や決算書に表示されている「売上総利益」「営業利益」「経常利益」は、どれもこの制度のためには使いづらいので、個々の会社ごとの独自のルールによる会計、つまり「管理会計」の設計も同時に行います。
この「管理会計」によって、社員に「見せられる部分」と「見せられない部分」に大きく2分します。この「みせられる部分」を「業績連動型のための業績」とするのです。
ボクがおススメしている管理会計の基本フォーマットは、下記のようになっています。月次決算で作成する試算表の配列をエクセルなどの表計算を用いて組み替えて作成したものです。

「見せられる部分」と「見せられない部分」の境目は「分配対象利益」です。
組織があまり大きくない中小企業において、人的コストの実額を公開することは「推測」につながる恐れがあるために公開しません。また、前述したように社長の給与や交際費など「誤解」を生じさせるような科目も非公開とします。
*この管理会計の損益計算書の詳細は、この記事を参考にしてください。
社員たちがなすべきことは分配対象利益の最大化
社員には「分配対象利益」の最大化のために頑張ってもらい、その成果分配として給与、賞与を支給します。この「分配対象利益」の最大化に社員達がなすべきことは、シンプルです。
上記の計算に従って
- 限界利益率を上げること
- 無駄なコスト削減すること
この2つによって「分配対象利益」を大きくすれば、それに連動して給与や賞与が増える、という仕組み・仕掛けです。
人事評価による公平な分配
2つ目の柱は「人事評価」です。人事評価の評価点(ポイント)の割合で山分け(シェア)する仕組みなので、その「精度」が「公平性」に直結するので、最も神経を使うところです。
「社長にとって理想とする人材」「最も多く山分けしてあげたい人材」を言語化するところから設計が始まります。ネガティブに言い換えれば「社長にとって困った人材」「最も分配を少なくしたい人材」の言語化でもあります。
意外とこの「陰陽」の両面でのインタビューが、評価項目のピックアップに効果的です。経営者の心の奥にあるストレスが人材であることが如実に表れる瞬間でもあります。
3つのチェックシートがワンパッケージ
ボクがおススメしている人事評価のカテゴリーは「クレド」「基礎スキル」「実務スキル」の3つ。
最近は、中小企業でもよく見かける「クレド」。いわゆる経営理念であり「ミッション」「社是」など、様々な表現はありますが、その会社の経営者が最も大切にする価値観を表したものです。
社員である以上、その理解と実践は新人もベテランも関係なく求められるものであり、これを評価の一部とします。
「基礎スキル」は、年齢や職種に関係なくビジネスパーソンとして求められるスキルで、「実務スキル」は、職種ごとの評価項目です。営業職、製造職、事務職など、職種ごとに評価基準を設けます。
「クレド」と「基礎スキル」のチェックシートは、全員共通、「実務スキル」のチェックシートは、職種ごとに用意し、これら「3つのチェックシート」で評価します。
評価するのは経営者
誰が、いつ、どのように採点するのか?
上記のように3つのチェックシートを用いて、全員の点数=ポイントをつけていきます。
だれが?・・・「社長」です。
ボクは、新しい人事評価の制度の導入期は、可能な限り経営者自身が全員の評価をすることが望ましいと思っています。ただ、人数が多い場合、ボクの経験では30人を超えると、経営者一人で全員を評価することは困難となりますが、それでも「誰かに任せっきり」にならないようにしなければなりません。
経営者以外の評価者(多くの場合、部門長)が評価する場合、この部門長が「評価者」として正しく機能するように、事前に「評価者訓練」を実施することが非常に重要です。
そのための最も効果的な訓練は「評価チェックシートの説明会の講師をしてもらう」ことです。「評価の方法を学ぶ」より「評価の項目を教える経験」の方が手っ取り早いです。
「チェック項目の一つ一つについて、他者に説明できない人は、他者を評価することはできない」のです。
前述した「任せっきりにしない」ために、経営者は評価した部門長に「なぜ、その評価結果となったのか?」をヒアリングし「決済するプロセス」が必要なことは言うまでもありません。
1 on 1 カウンセリング
さて、この人事評価の時期と方法ですが「四半期ごとに個人面談=1 on 1」が最も効果的です。
評価する人と評価される人が四半期ごとに30分~1時間、3つのチェックシートについて意見交換します。これをカウンセリングと呼んでいます。四半期ごとに「評価面談」を行うのではなく、四半期ごとに「成長についてのカウンセリング」を実施することによる「成長を支援する仕組み」です。
「あなたは、何点です」という告知の面談ではなく、あくまでも成長支援のためのカウンセリングです。
事前に「自己評価」を提出してもらい、評価者の評価とのギャップを整理してカウンセリングに臨みます。
双方、同じ点数の項目についてはギャップがないので問題はありません。でも、お互いの点数が異なる場合、例えば、本人の自己評価は3点なのに、評価者の採点は2点、というような場合です。
「個人面談」の場では、評価期間にあった事実に照らし合わせてギャップについて話し合います。その結果、本人の自己評価のとおり3点になることもあれば、反対に本人も納得の上で評価者の採点である2点に落ち着く、ということになります。
カウンセリングは四半期ごとがベスト
ちなみに、四半期ごとに行う意図は「お互い忘れないように」です。
人事評価のチェック項目は、日常の仕事のなかで忘れられがちで「え~っと、どんなチェック項目があったかな?」となることが少なくありません。評価のタイミングが3か月以上になると、この「忘れるリスク」があります。
その延長線上にあるのは「そろそろボーナスの時期なので、人事評価をしないといけないな・・・」という「駆け込み評価」です。それでは、評価の精度が落ちるだけでなく人事評価への不信感にもつながりかねません。また、その結果「不公平な山分け」になってしまえば元も子もありません。
この「不公平な山分け」という最大リスクを回避するためにもカウンセリングは四半期ごとがベストです。
人事評価を軽視すると組織が崩壊する?
この「みんなで稼いで、みんなで分けよう!」というコンセプトで運用する業績連動型に潜む最も危険なリスクは「みんなで稼いだのに、だれかが得をしている、だれかが損をしている」という「不公平な山分け」となったときです。
誰しも大きな期待の時ほど落胆も大きくなります。「これからは業績に連動させて公平に分配するね!」と社員たちに期待だけさせておいて、結果はそれに反して、雑な運用による「不公平な山分け」となったとき、労使の信頼関係にヒビが入り、最悪の場合は組織が崩壊してしまいます。くれぐれも「人事評価」を軽視しないよう注意してください。
教育研修による成長支援
3つ目のテーマは「教育研修」です。
これは「教える」というより「成長を支援する」という取り組みです。このニュアンスの違いは、教えさえすればよい(あとは知らない)、ということではなく「成長の成果」が必要である、というところにあります。
前述したように、中小企業の人材の多くは「学習の補助者」が必要です。多くは「自習」が苦手なのです。教材は「人事評価の3つのチェックシート」。人事評価のチェックシートの点数を上げることを目的として支援します。
例えば、基礎スキルのひとつに「コミュニケーションスキル」があります。年齢や職種に関係なくコミュニケーションスキルは、すべてのビジネスパーソンに必要な基礎スキルです。経営者は社員達に「コミュニケーションスキルを上げてほしい」と思ってるのですが、なかなか上がらないということがよくあります。その理由は、彼らはコミュニケーションスキルの上げ方がよくわからないからです。あるいは、上げる気がないからです。
成長支援の取り組みは、コミュニケーションスキルはどうすれば上がるか?をサポートすることです。「上げなさい」ではなく「こうすれば上がるよ」と教えてあげることが重要なのです。
さて、これを「手間がかかる」と思いますか?
いつまでたってもコミュニケーションスキルが上がらない社員とつきあうより、最初は手間をかけてでもコミュニケーションスキルが合格ラインに達した社員と一緒に仕事をするほうが、中長期的に「お得」ではないでしょうか。
厳しいことを言うようですが、それでもダメな社員は、経営者自身の採用力を反省すべきであり、社員に八つ当たりしている場合じゃない、ということを経営者自身の問題として反省しなければなりません。
「(経営者を含む)評価者は、3つのチェックシートの点数の上げ方」の講師としてのスキルが必要です。
もし「成長支援」に不安があるならば、コンサルタントやコーチなど、外部支援も検討しましょう。
まとめ
以上「業績連動型の給与賞与制度を成功させるための3つのテーマ」を紹介しました。
管理会計、人事評価、教育研修、それぞれ「意外と大変だなあ・・・」と思われたかもしれません。
「大変だから当社はやめておこう」というのも経営者の選択であり意思決定です。
しかし「想い通り経営」に「業績連動型の給与賞与制度」は絶対に外せません。
なぜなら、社員が成長することで業績が上向き、その成果を分かち合うことによる幸福感を求めているからです。
「想い通り経営」を目指すなら、是非、検討してください!
お役に立ちますように!