【業績連動型給与賞与】計算の仕組みと大切な目的

「給与や賞与を会社の業績に連動させたい」と考えている多くの中小企業経営者のみなさんに、当社で約10年前から試行錯誤を重ねて運用してきたマーカス式の業績連動型給与賞与制度=MPSPMARCAS Profit Sharing Program)の計算の仕組みと、この大切な目的について詳しく解説します。

師走のある日の賞与支給シーン

時は師走。明日は冬の賞与の支払いだ。今年も、みんなよく頑張ってくれたので、今回は少し多めに支給することにした。一年間、一緒に頑張ってきた社員たちが喜んでくれれば良い新年が迎えられる。少々資金繰りは苦しいので、このために短期で銀行融資も受けた。

賞与の朝、社員を一人一人呼んで「支給明細」を手渡した。

「1年間、お疲れ様!」
「ありがとうございます。」

第三者には微笑ましい光景に見えます。

ところが・・・

社員たちは賞与の支給明細をまわりに見られないように、まるで、成績表を見るがごとく、手のひらをV字にしてのぞき込んでいますが、その表情が冴えません。

社長は、資金繰りが苦しいにも関わらず銀行から借り入れをして少し多めの賞与を支給したから「どや顔+笑顔」で支給明細を手渡しているのに、です。

どうやら社員たちが期待していた金額には足りなかったようです。

「例年の業績に比べればもっとあるだろう!」と思っていた期待の賞与はもう少し多かったようです。明らかに「え?これだけ?少ない・・・」と顔に書いてある社員もいます。

社長は、全員に支給明細を手渡し終わると「さ、みんな、来年もよろしくな!」と全員に声をかけました。ところが妙な空気が漂っています・・・。

このような賞与支給日のシーンにはいろいろありますが、経営者の「悩み」は共通しています。

「経営者の思う賞与」と「社員が思う賞与」のアンマッチです。

これは深刻ですね。

上記のように経営者は決して「ケチってる」わけではありません。

むしろ報いたいし、喜んでほしい、と心から思っています・・・なのに通じない・・・。

本来「うれしい日」になるはずの賞与で、経営者と社員の間に妙な溝ができてしまう。だから深刻なのです。

もともと「ケチな経営者」なら気にならないと思いますがw。

「業績連動型」で解決しようとしている課題は、賞与の金額の大小ではなく「両者の溝」です。

このような「溝」が生じない仕組み・仕掛けが必要なのです。

みんなで稼いで、みんなで分ける。ダメなときは、みんなでガマンする。

「業績連動型」のキャッチコピーは

みんなで稼いで、みんなで分けるダメなときは、みんなでガマンする

です。

「業績」をオープンにして、この「業績」に連動するルールで給与や賞与を決めます。

「業績」が良ければ「給与・賞与」は連動して増えます。反対に、良い時ばかりではないので「業績」が悪ければ「給与・賞与」は同様に連動して、それなりの金額に落ち着きます。

これは、経営者と社員が納得して決めた「公のルール」に従って計算されたものです。もし「文句」があるのなら、それは「給与・賞与」への不満ではなく「ルール」への不満となります。

そのような不満が生じたときは、その都度、労使で話し合って改正を重ねます。丁寧な改正を重ねることで、この「業績連動型」は進化し、完成度が増していきます。

このようなプロセスでブラッシュアップするので「業績連動型」は「給与・賞与の民主化」という言い方をすることもあります。「業績連動型」であれば、社員たちは、給与や賞与を増やすためには頑張って業績を上げればいいのであって「独裁国家のボス」の顔色をうかがい、媚びることは必要なくなります。

業績連動型の目的=経営の安全性と人材育成

「業績連動型」の目的を改めて整理しておきます。

この「業績連動型」は文字通り、会社の業績に連動して「人的コストの総額と個々への分配を決める方法」です。

給与や賞与以外にも福利厚生費や通勤手当なども含む人的コストの総額を業績に連動させることで、経営の安全性が高まると同時に、社員の経営参画意識、当事者意識を刺激することにもなります。そんな社員の意識が彼ら自身の成長を促し、結果として組織はより活性化することになります。これが「業績連動型」の本当の目的なのです。

業績連動型の計算プロセスのイメージ(原則的な方法)

少しずつ「実務」を紹介しましょう。まずは「計算プロセスのイメージ」です。

業績連動型給与賞与
  1. 業績)×(分配率)=(人的コスト総額)
  2. 分配額)×(シェア率:各自の獲得ポイントの比率)=(各自の分配額=給与+賞与)

業績×分配率=人的コスト総額

人的コストの総額は、副費も含めて計算する

まずは「人的コストの総額」を決めます。

これは「業績」に「分配率」を乗じることで決まります。「業績」は経常利益や当期純利益ではありません。詳しくは後述しますが「何を持って業績とするか?」は会社ごとの事情に応じて柔軟に決めます。

また「人的コスト総額」には給与や賞与だけではなく、通勤交通費や福利厚生費、社会保険料の会社負担額など、人に関連するコストのすべてです。

したがって、社員に給与や賞与として分配されるのは「人的コスト総額」から、これらの「副費」を除いた金額となります。

計算式で表すと・・・

人的コスト総額=(全員の分配額=給与+賞与)+副費
*副費=通勤手当・社会保険料会社負担額・福利厚生費等

人的コスト総額」を決定し、固定化するので、もし福利厚生費が増えると、分配額は減ることになります。

慰安旅行に行くと賞与が減る

ここに大切な着目点があります。当社で実際にあったエピソードです。

幹事「社長、慰安旅行に行っていいですか?」
社長「うん、いいよ。自分たちで考えて決めてね。」
幹事「はい、ありがとうございます」
社長「念のために確認しておくけど、分配額に影響するよ。
幹事「はい、もちろん分かっています。」
社長「他のメンバーも納得しているか?」
幹事「はい、前もってみんなと相談しました。賞与は減るけど、この機会にマカオ・香港へ行きたいって。」
社長「んじゃ、大丈夫だね。行ってらっしゃい!」
幹事「え、社長は行かないんですか?」
社長「たまには、海外でボクの悪口でも言いながら楽しんでおいで(笑)」
幹事「はい、ありがとうございます。お土産買ってきますね!」
社長「いや、みんなが無事に帰ってきたら、それが一番のお土産だよ」
幹事「また、いい人のフリして~(笑)」

「業績連動型のルール」では慰安旅行の費用=福利厚生費を使えば分配額が減ることを彼らは正しく理解しています。みんなで稼いだ利益の一部をみんなで楽しむために使うなら、と全員の意見が一致したとのこと。「業績連動型」が機能しているな、と安堵感を覚えた場面でした。

分配率は「固定分配率」か「累進分配率」

さて「業績」に乗じる「分配率」は、一般的には、30%~40%の範囲で決めます。「給与の3倍稼げ」というフレーズを知っている方もいらっしゃると思います。

この「分配率」は「固定分配率」でもいいのですが「累進分配率」を用いることも効果的です。

「累進分配率」は、対象となる社員の人事評価の平均点に応じて「分配率」が変わる、という方法です。つまり、全員の評価点が上がると、それにリンクして「分配率」がアップし、山分けする「山」が大きくなる、という仕組みです。

なので(極端な場合)平均点以下の社員が退職すると残ったメンバーの平均点があがり「累進分配率」が上がる、ということもあります。

「累進分配率」の狙いは「人事評価の平均点を上げて山を大きくしよう!」と意識してもらうことにあります。

分配額×各自の獲得ポイントの比率=各自の分配額

次は「分配額=給与+賞与」を個人にどのように分配するか?です。

ここで登場するのが「獲得ポイント」。実務的には「人事評価の点数」という生々しい数字です。「評価点」というより「あたりがソフト」な今風の「ポイント」と表現しています。

各人の人事評価の結果である「ポイント=評価点」の比率=シェア率で個々に分配します。

(全員の分配額)×(各自の獲得ポイントの比率=シェア率)=(各自の分配額)

ここで、二つ目の着目点。これで決まるのは「年俸」です。「(全員の)分配額合計」に各個人のシェア率(=各自の獲得ポイントの比率)を乗じるとその人の「年俸」が計算されます。

「年俸」で計算する理由は「公平に分けるため」です。

給与や賞与をそれぞれ個別に公平に計算しても年俸ベースで不公平なっては意味がありません。あくまでも「みんなで稼いだ業績を、みんなで公平に山分けする」ためには、年俸ベースで公平性を保つ必要があります。

個々の年俸と賞与

上記を整理すると・・・

  1. 業績が確定する
  2. 業績に分配率を乗じて「人的コスト総額」を決定する
  3. 「人的コスト総額」から「副費」を差し引いて「全員への分配額」を求める
  4. 「全員への分配額」に「シェア率(個人別のポイント率)」を乗じて、個々の「年俸」を決める

もう一度、イメージ図で確認してみてください。

業績連動型給与賞与

さて、肝心の「賞与」はどうするか?

この方法による「賞与」は「おつり」です。

つまり・・・

(給与)+(賞与)=(年俸)

なので・・・

(年俸)-(年間給与)=(年間賞与)

となります。

夏季+冬季、年2回の賞与であれば、この(年間賞与)から「夏季賞与」を引いた残り、つまり「おつり」が「冬季賞与」となります。

ちなみに、夏は期中につき「山分け比率が未確定」な状態であるので、実務的な事務負担を軽減する意味も含め「業績や人事評価に連動しない仮払い」をすることをお勧めしています。

例えば「夏季賞与は(基本給+評価手当)の2か月分」というような方法です。

業績連動型の計算プロセスのイメージ(簡便的な方法)

上記は「原則的な方法」なのですが、複雑なので「もう少し簡単な方法はないの?」というご相談をいただくことががあります。

そのような場合は、売上高(または限界利益)の前期比・予算比をベースに分配する、という簡便的な方法をご提案することがありますが、その簡便法についても紹介しておきますね。

「原則的な方法」による「業績」は、収益=売上高だけではなく、コストについても計算要素に含める方法なのですが、簡便的な方法は収益=売上高のみで分配利益を求める方法です。

社員たちには、コストはいいから売上高や限界利益に集中させたい、という場合は、むしろ、この簡便法の方が適していることもあります。

計算例を示すと、

  • 前期に比べて超過1%あたり10万円
  • 予算に比べて超過1%あたり10万円

というようにルールを定め、例えば、それぞれ10%超過すれば、

・前期超過分配=10万円×10P=100万円と
・予算超過分配=10万円×10P=100万円の

合計200万円を「分配原資」として、これを各自のシェア率で分配するという方法です。

それぞれのレート、つまり1%あたりいくらにするか?は、シミュレーションを重ね決定することになります。

ただ、この簡便法の注意点は、レートの決定に加えて「上限下限設定をするかどうか?」を検討する必要があります。万が一、想定以上に超過し、仮に前期比の2倍となると、この例であれば、超過100%となり、合計で2000万円を山分けすることになります。

そのような万が一に備えて「前期年収の120%を上限とする」「業績に関わらず、前期年収の90%は保証する」などと、上限下限規定を加えることも検討です。

重要なコンセプト=業績連動型は人材育成のツール

さて、ここで改めて「業績連動型」の重要なコンセプトを再確認しておきます。

この仕組みの目的は「金額を計算すること」ではありません。

この仕組みを通じて人材育成、つまり成長を支援するのです。

これが会社の成長につながることは言うまでもりません。

社員が成長する→業績が向上する→分配額が増えてモチベーションが上がる→会社が成長する

という、多くの経営者が目指すところの善循環を実現するための仕掛け・仕組みです。

したがって、この「業績連動型」を運用し、成功させるために、経営者が心掛けなければならないことは・・・

業績を向上させることで、社員の待遇を良くしたい
業績を向上は、社員一人一人の成長に大きく左右される
したがって、社員の成長は不可欠
そのために、会社は社員の成長を支援する

という「想い」であり、成長支援への取り組みの一環であることを忘れてはなりません。

この「想い」が、もし表面的な口だけの「建て前」である場合、この業績連動式の成功確率は極端に下がります。

なぜなら、そんなこと社員はお見通しだからです。冷めた社員と運用する「業績連動型」ほど空しいものはなく、むしろ「薬」が「毒」になってしまうので、要注意です。

まとめ

「業績連動型の給与賞与」の計算の仕組みと大切な目的について紹介しました。

これは、ただの「給与賞与を計算する方法」ではないことを理解してもらえたと思います。

繰り返しますが「業績連動型」は「社員の成長を促し、業績を向上させ、もっと給与・賞与を増やすための仕組み」です。

この制度のメリットは、

  • もう、賞与で悩まなくてよい。
  • 業績連動なので、事実上人的コストの上限設定になり、経営リスクが軽減される
  • 正当評価に応じた待遇となるため、労使の信頼関係の強化につながる
  • 信賞必罰、優秀な人材ほど、納得性のある制度

ということですが、デメリットもあるので最後に付け加えておきますね。

  • 業績不調の場合、賞与ゼロの可能性があり、モチベーションへの影響が懸念される(→これは、最低保証ルールを加えることで軽減することは可能)
  • 業績を社内で公表するが、社外漏洩のリスクがある
  • 1on1の面談、評価集計等、など「人事評価」に手間がかかる

などです。

以上、「業績連動型」の給与賞与を検討している経営者の方に参考になれば幸いです。

お役に立ちますように!

30年以上、税理士として数百名の中小企業経営者と向き合ってきた経験から、独自のメソッドで成長志向経営者の「想い通り経営」をサポート。特に、管理会計を活用した業績分配制度の設計、運用フォローに定評がある。20~40代の若手経営者の兄貴的存在として多くの支持を得ている。1961年生丑年蠍座。