【事業承継】失敗しない後継者育成、3つの前提

修業時代も含めて30年以上も税理士をしていると、若手時代にお世話になった経営者からの「事業承継」のご相談が少なくない。その中でも、税理士としての本業である「株価対策」以上に「後継者育成」のご相談が多く、いままで、さまざまな場面に立ち合ってきた。

私のマネジメント・コーチとしての経験は決して豊富とは言えないが、いずれにも共通していることがあり、また、一つひとつの事例が「濃い」。

その経験を通じて私が感じた「後継者育成の前提」を整理して紹介する。「何をどうやって教えるか」の前にある「前提」。この記事は「次世代経営者」を育てようとしている「現・経営者」の方にお客に立てば幸いだ。

3つある後継者育成の前提

事業承継(後継者育成)のご相談をいただいた時に、必ず私が伝えていることは次の3つの「前提」となる重要視点だ。これらの「前提」が無ければ、どれだけ「方法論」を実践しても「のれんに腕押し」が続く。

前提1「自分とは違う」と心情的に認識すること

私は「創業者は天才」と思うときがある。独特の「才能」や「感覚」でゼロから事業を立ち上げ、会社を育て、現在にいたっている経営者は「天才やな~」と思うのだ。

「才能」には、人並外れた「努力の才能」も含んでいる。寝食を忘れ、人の何倍も働くこことができるのも「才能」だと思う。とくに「昭和の時代」には、そのような創業経営者とたくさん出会った。

ところが「後継者」は、実子か他人に関わらず、違う時代に生まれ育った人だ。「自分とは違う」と理屈ではなく心情的に認識することが「前提」となる。

「私は、こうやって努力した」「私は、こうやって成功した」という話は「あなただから」である。同じことをやっても後継者には同じ効果はない、と思う方がよい。「後継者の力量に見合った方法」を考えなければならない。

前提2「後継者の経験量」を増やすこと

私は、経営者育成には「実践経験」が最も重要と考えている。「理論」も大切であるが、それは「実戦」を裏付ける知識に過ぎず、座学だけで経営者は育たない。異論はないはずだ。

自動車の構造や、交通ルールなどの知識と共に「路上経験」が自動車の運転に必要なのと同じである。

しかし、多くの「現・経営者」は、後継者の失敗が心配なあまり、時には「失敗しないアドバイス」にとどまらず、本来なら「自分で気付かなければならないこと」まで答えを教えてしまう。ついつい口から出てくるのだろう。

最悪なケースは「後継者のアイデア」を「まだ、お前は分かっていない」と子ども扱いする「親」までいるが、私は「もったいないなあ」と思う。「親」が何百回アドバイスするより、後継者が自分で考え、行動した結果の失敗の方が、よほど「身になる」のに、と思うのだ。

まさに「かわいい子には旅をさせろ」だ。できる限りさまざまな経験の機会を与え、成功体験も失敗体験も「後継者の経験量」を増やすことが非常に重要である。

前提3:「今の時代」を積極的に経験すること

時は令和、時代が流れ「昭和のヒーロー」も色褪せる時代になった。「天才=現・経営者」もこの時代の流れには弱いようである。「苦手」と言ってもいいかもしれない。

後継者に対して、自分の経験からの「べき論」を言いたくなる気持ちは、私も昭和世代なので本当によくわかる。しかし、この考え方では「後継者育成」はできない。最悪は失敗する、と断言してもよい。

「昔の時代感覚で後継者を見る」は危険である。「今日日の若いもんは」ではなく「今日日のジジイは」と見られていると思うくらいがちょうどよい。

そのためには「今の時代」を積極的に経験することに尽きる。そして、それを批判的に見るのではなく、理解する努力を重ねることが大切だ。

自分の好き嫌いはあるし、それを曲げる必要はない。「今の時代はおかしい」ではなく「今の時代はそうなのか」という姿勢だ。プライベートでは「キライ」でも「おかしい」でもよい。個人の自由だ。しかし「後継者育成」を目的とするならば「キライだし、おかしいと思うが、理解はできる」という心がけが大切なのだ。

たとえば「スマホは持たない」「テレワークはダメだ」「SNSは見たことない」ではどんどん取り残される。後継者の同世代が「当たり前」としている様々な道具や流行りを積極的に経験することが「現・経営者」に必要な努力だ。

ちょっとしたエピソードを紹介しておこう。

ある後継者候補が、役員会で「インスタでバズらせて新規顧客を獲得するプランです!」と提案した。「現・経営者」と同じ世代の役員たちは「???」。結果は「却下」。賛否どころか「わからないから」が理由での却下だ。私は「後継者」の問題どころか「社長と役員の問題です」と苦言を呈したのはいうまでもない。

お互いに「相互理解」の努力をすること

私は「後継者育成」の前提として「相互理解」が大切で、そのためには双方が「相手の世代の相談相手をもつこと」が効果的な方法と考えている。

もし、後継者候補が40歳だとすれば「現・経営者」は「40歳の相談相手」を作る。反対に「現・経営者」が60歳ならば、後継者候補には「60歳の相談相手」を作るこという具合だ。

ところが、実際に多いのは「現・経営者」は同世代の経営者と「君のところの後継者はどんな感じ?」「いや~ウチもね・・・」と慰めあっている。後継者候補も同じ境遇の相手と「君のところのオヤジはどう?」「いや~ウチのオヤジもね・・・」と酒を酌み交わしている。これはこれでよいと思う。気持ちが分かる者同士がストレスを解消すればよい。

ただ、これは「ストレス解消策」であって「後継者育成の解決策」ではない。

「現・経営者」は「後継者の理解」に努め、「後継者候補」は「現・経営者の理解」に努めることが大切である。「相互理解」のために、本人同士では感情的に素直になれないのなら、上記の「疑似的な相手」との意見交換によって理解する努力をするのだ。

上記の理由で、私のコーチとしての仕事相手は「現・経営者」よりも「後継者候補」になる。「オヤジと同じこと」であっても、私の口から伝えると素直に耳を傾けてくれることが多い。「いや、分かってるんですよ。でも、オヤジの言い方に素直になれなくてね」なんて言ってくれると「冥利に尽きるな」と思う。

まとめ

以上、後継者に事業承継をするにあたって、大切な「育成の3つの前提」を紹介した。

  • 「自分とは違う」と心情的に認識すること
  • 「後継者の経験量」を増やすこと
  • 「今の時代」を積極的に経験すること

なぜ、この話を紹介したか?私の本音を書き添えておこう。

実は、この3つの前提が「障害」となってマネジメント・コーチの現場で苦労しているからである(苦笑)。

  • 社長、後継者はあなたと違うんですよ!
  • 社長、後継者がかわいいなら失敗させてあげて!
  • 社長、若い彼女でも作ったら?

と「現・経営者」には何度も何度も耳打ちしている。私が現場で最も困るのは

「どうせ、オヤジはガンコだから、何を言ってもムダですよ」

と後継者から聞かされることだ。こうなると後継者は「経営の勉強」ではなく「現・経営者の扱い方」ばかり勉強する結果となる・・・。

その証拠、と言ったら言い過ぎかもしれないが「幸福な事業承継」を進めている経営者は・・・

  • 後継者は、タイプも時代も私とは違うからなるべく口出ししないようにしてるんだよ。
  • あの失敗でたくさん勉強してくれたと思うよ。失敗させてよかったよ。
  • 最近ね、インスタを始めてフォロワーも増えてるんだ~!

というような「どや顔」をしてくれる。ほほえましい光景だ。

事業承継を控えて後継者問題で困っている社長!ぜひ、共に「かわいい次世代」を育てましょうよ!